2014年 11月 19日
窓からの景色
作業場での様々な人との出会いは風通しがよく、
利害関係のない付き合いはとっても自由で楽しかった。
ふと隣り合わせた年配の男性が、緻密なのに
どこかしらおおらかで、不純物を含まない完成度の高い作品をつくっていて
きれいな石や植物みたいなその作品を
心からほしくなり、いただいたことがある。
お礼にインクを数種お送りしたら
安価なものだけ受け取り、残りはわざわざ送り返してこられ
以来ずっとその作品は
うちの壁にさわやかな晴天を映す「窓」のように存在した。
私はやがて、自宅のプレス機で制作するようになり、
工房へは行かなくなった。
ここひと月ばかり、個展の準備で額を外し、壁を養生したりして
めずらしくその版画をしまっていて
そろそろ出そうかなと思っていたところ
きのう、その方の奥様から喪中はがきが届き
おしゃれで控えめなその方が、5月の終わりに亡くなっていたことを知った。
私はしまっていた作品を再び取り出し、額に収めて
また飾る。

この窓から入ってくる、どこまでも澄んだ空気をぐっと吸い込んだ。